碁がたきは憎さもにくしなつかしさ
いさかいをしい く 碁打仲がよし
淋しさに仲直りけり碁友達
碁のかたき今日もうつぞと呼にやり
最初の句は有名だ。碁がたきは負けると顔も見たくないが、いないと好きな碁が打てない。仕方なく呼びにやる。
碁の友来ては無事とう互先
碁打に来たそ下手はお宿か
お前でもよいとは勝負しよう也
碁の友達が来るとまずお互いの家族の安否を確かめ合うのが礼儀。でも「下手は在宅か」と大威張りでやってくる碁打ちもいる。「お前でもいいから碁を打とう」とは失敬千番。目に物見せてくれよう。
互先は碁の縁語。お宿は在宅の意。
あっちから竹筒(ささえ)もてくる碁のかたき
碁がたきを打つ伏勢(ふせぜい)に酒肴
酒持参の友もいれば、今日は相手を酔わせて碁に勝とうという遠謀深慮の亭主もいる。
竹筒は酒を入れる竹の筒。伏勢は伏兵で待ち伏せのため隠しておく軍勢。
よい日和続けば切れる碁の相手
気候がよいと皆外に出かけるので碁の相手が減る。
遺恨山のごとしと碁盤を出し
碁石出しなから蛇が来た蛇が来たと
島田で出したこのかたと盤をふき
負けているばかりの友が来る時には今日こそは借りを返すと碁盤を持ちだす。酒のみの友の時には子供たちが「蛇が来た。蛇が来た」とはやし立てる。第三句はやや難解だ。島田は大井川東岸にある東海道の宿場町というヒントでピンとくる方は相当の江戸時代通だ。大井川は水かさが増すと川止めになる。川止めになると旅人はヒマだからその間碁、将棋、博打等で時間を潰す。今日たずねて来る友達は一緒に伊勢参りに行って島田宿で川止めにあい碁を打った仲だ。それ以来碁を打つのは今日が初めてだというのが句意。
蛇は大酒飲みの意。
座敷中碁石をまいて仲たがい
酒にもまけて帰る碁がたき
碁の待った待たないで喧嘩になり座敷に碁石をばらまいて帰った客、碁にも負けその後の酒の飲み比べにも負けた客。客もいろいろだ。
碁ともだち髪まで白と黒い也
碁友達も年を取った。髪に白いモノが目立ってきた。
髪と碁石の白黒をかけている。
野菊咲く空へもいぬる碁打あり
はてぬる友を碁石に数よみて見る
死活を論ず碁の友のはても石
碁の友の先手は石に黒い文字
さらに年をとると亡くなる方も出る。第二句は鬼籍にはいった碁仲間の数を碁石で数えている。第三句は一緒に碁を打った相手も墓に収まった。第四句は亡くなった碁友達の墓の文字の色が朱から黒に変わった。後の二句の石は墓石の意。石、先手は碁の縁語。
どん尻に焼香したのは碁の相手
対局中に頓死した碁打ちの葬式。最後に焼香するのはその時の対局相手だ。