助言すなと口なし形の盤の足
碁盤は背に臍鍋釜は尻に臍
むかしから碁盤の臍は四角也
碁盤の脚の飾りは第一句がいうようにくちなしの花の形であるとか橋の欄干の擬宝珠(ぎぼし)の形とかいわれる。くちなしは「口無し」で助言不用を暗示している。碁盤の裏には臍と呼ばれる四角な窪みがある。これは碁盤に碁石を置いた時の音と感触をよくするためといわれる。臍は血溜まりとも呼ばれる。碁の対局に口を出した者の首を切って碁盤を裏返してその上に置く。臍はその際の血溜まりだという物騒ないわれがある。
古碁盤足がひょろつき目がかすみ
年を経し碁盤目もなし足も無し
手ずれたる碁盤に顔のうつる程
石一つかつて碁盤のよくすわり
古碁盤は足もがたついており盤面の罫線も消えそうに薄い。第一、二句はその様子を詠んだもの。第三句は使いこまれた碁盤の盤面の輝きを、第四句は足ががたつくので碁石を一つかって安定させる様子をよんでいる。
紙碁盤はては紙帳(しちょう)の継になり
自身番風に碁盤を吹取られ
江戸時代は紙の碁盤も使われたようだ。何度も使うと破れれるので蚊帳(紙帳)の継に使う。碁盤とシチョウが縁語。第二句は町人地にあるの番所で使っていた紙碁盤が風に吹き飛ばされたの意。
碁盤には碁を打つだけでなくいろいろな用途があったようだ。
物縫いに貸せば碁盤が足を出し
碁の客が來ぬでしつかり押しがきき
うつぶけて洗濯物に置く碁盤
碁盤しらげて仮のまな板
碁盤を裏返して裁縫のくけ台(布地を引っ張る道具)、縫い上がった着物や洗濯物の上にのせてしわ伸ばしに役立てる。最後は板碁盤を洗って(しらげて)、まな板にも使ったようだ。
俄雨あたまに碁盤乗せて来る
四方面(しほうめん)女房の用は足を上げ
第一句は俄雨の時の傘がわり。第二句はやや難しい。四方面は四方正面でどこから見ても柾目の最高級の碁盤。でも碁を打たない女房には猫に小判で足台ぐらいしか使い道がない。
碁盤にて蝋燭あおぎつ力くらべ
軽業の稽古碁盤の上で反ってみる
力自慢の相撲取りはお座敷で碁盤を片手に持って蝋燭を扇いで消して見せた。碁盤の上で軽業を披露する者もいた。
なぶられて次第につやの出る碁石
十五夜に三日月も出る古碁石
碁石も使い込むと艶がでる。さらに古くなると三日月のように欠けた碁石も混じるようになる・
この白い碁石が元は雀とは
雀から碁石に成った三代目
はまという碁石二度死ぬ浜の貝
中国には雀が海中に入り蛤に化するという伝説がある。碁の白石は蛤から作るので雀から勘定すると三代目になる。さらに蛤が死んで白石になりそれが殺されてハマになる。
那智黒の雨にざれ出る座敷跡
碁盤へも一ばんに打つ那智
黒石は紀州の那智黒石が珍重される。座敷跡は宴会の後の意味で雨が降ったので宴会後が碁会となったという意味である。西国三十三所の第一番は那智山青岸渡寺である。碁の第一手は(那智)黒石だし、西国巡礼の最初も那智山だ。
饅頭を喰いさして置く碁笥の蓋
孫ふたりつれ碁笥にあん餅
焼飯おにぎり入れたる碁笥の内
揚弓(ようきゅう)の的に釣りたる碁笥の蓋
碁笥にも色々の用途がある。饅頭、餅、おにぎりを置く皿に使える。揚弓は小さな弓を使った射的ゲーム。その的にも碁笥を使う。